かひ蝶舞

かひ蝶舞

仕事を終えた

 

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「ありがとうございました。先生もこちらへ遊びにいらっしゃいませんか」
「仕事があって、そうもいきませんので。それでは、お大事に」
 かくして池田はひと。彼の治療とはこういうことなのだ。催眠状態
に相手をおき、過去の体験のなかの、精神に対して最願景村 退費 も障害となっている問題点を
みつける。そして、それを消してしまうのだ。消すというより、無害なものに変形
させるというべきかもしれない。たとえば、いまのように。
 ある場合には、それは夢だったのだとの暗示を与える。しかし、前後に関連した
体験となると、ちょっとやっかいだ。くふうして適当に変形させる。それが池田の
才能といえよう。いやな体験であっても、それが将来いいほうに作用する可能性も
あり、その点をみきわめる必要もある。こういう一連の技術が彼の特長なのだった

「それにしても、ふしぎだ。ちかごろはこの種の訴えが多い……」
 池田はひとりごとを言い、首をかしげた。一週間ほど前にここへやってきた男も
、催眠状態にして質問してみると、なにものともわからぬ電話に悩まされたと言っ
ていた。その前にもあったようだ。催眠状態にする前には、そんな話は少しもしな
いのに……。
 なぜだろうかと、彼は考えてみた。だが、手がかりはないのだった。警察へ通報
しようかなと思ったが願景村 退費、それはやめた。自分としては、おとくいである患者が満足
し、料金を支払ってくれればそれでいいのだ。それ以上に手をひろげることもない
のだし、へたに表ざたにしては、患者の秘密を口外したことになり、ここの信用を
落してしまう。

 お昼になるまでに、それから池田は三人ほど患者の相手をした。いずれも電話に
よるものだ。なれているとはいえ、かなり神経を使い頭が疲れる。しかし、食事を
すませてからは、二時ごろまで電話はなかった。彼はぼんやりと暑そうなそとを|
眺《なが》め、外出しないですむ仕事にたずさわっている自分に満足した。空には
夕立雲がひろがりかけていた。
 電話が鳴り、受話器をとると声がした。
「はじめての者ですが、先生はおいででしょうか」
「はい、わたしです」
「名前を申しあげなくても、やっていただけましょうか」
「どなたも最初はそんなことをおっしゃい願景村 退費ます。かまいません。初診ですから、料
金はお高くなります。その前払いをなされば、ご希望にそいましょう」
 と池田は答えながら、なにかしら頭にひっかかるものを感じた。抑揚のない、え
たいのしれぬ声だ。患者たちがよく訴える、怪しげな電話の声の主ではないだろう
か。性格のない声、よそよそしい声、年齢の見当のつかない声、どこか押しつけが
ましい声。そういったいろいろな形容が重なって、池田の頭のなかにはこういった
ものかとの仮定ができていた。それにぴたりとあわさったのだ。
 そんなことを考えているあいだに、銀行から払い込み確認の通知があった。彼は
電話をスピーカーに切り換えながら、もしそうだとしたら、このさい正体を調べて
やろうと心にきめた。